神戸地方裁判所 昭和63年(モ)809号 決定 1988年7月23日
破産者 X
右の者に対する昭和六二年(フ)第二四号破産事件について、破産者から免責の申立があったので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件申立を却下する。
理由
昭和六二年(フ)第二四号及び昭和六三年(モ)第八〇九号の各記録によれば、昭和六二年二月一七日申立人の代理人弁護士梶原高明により本件破産の申立てがなされ、同年四月一〇日本件破産宣告及び破産管財人選任の決定がなされ、同日同決定正本が申立人に交付送達されたこと、申立人は、同年五月八日の第一回債権者集会及び債権調査期日、同年六月九日の債権調査期日に出頭したこと、申立人は、同年九月初め頃から裁判所に対し破産法一四七条による居住地を離れることの許可を求めることなく、かつ、破産管財人及び申立人代理人に告げることなく、破産申立時の居住地を離れ、以後さらに居住地を転々としたこと、昭和六三年五月二七日本件破産終結決定がなされ、同決定は同年六月二四日官報に掲載公告されたこと、本件担当の裁判所書記官が同決定正本を申立人に送達しようとして申立人代理人に申立人のその当時の居住地を尋ねたところ不明との返答を得やむなく破産申立書記載の居住地に同決定正本を送達に付したところ、同月二七日同居住地とは別の場所において申立人本人がこれを受領したこと、申立人代理人は同裁判所書記官から右事実を知らされたことにより申立人と連絡がとれたこと、申立人は、それまで破産宣告により破産債権は消滅すると誤信し免責手続については格別念頭に存しなかったところ、右申立人代理人の連絡により破産債権の追及を免れるためには免責決定を得ることを要することを知り、申立人代理人を通じて同年七月八日本件申立に及んだことが認められ、以上によれば、本件破産事件においては免責申立は破産宣告の日昭和六二年四月一〇日から破産終結決定の公告の日昭和六三年六月二四日までの一年二か月余にわたってこれをすることができたにもかかわらず、申立人は、本件破産手続の途中から裁判所の許可を得ることなく、かつ、破産管財人及び申立人代理人に対して適切な連絡方法を講ずることなく居住地を離れて所在を転々とし、このため以後本件破産手続の進行を知らず、前記自己の法律判断の誤りを是正する機会を得ないまま前記の免責申立期間を徒過したものというほかなく、すると、右免責申立期間の徒過につき破産法三六六条ノ二第五項にいう申立人の責に帰すべからざる事由が存したとはとうてい認めることはできない。なお、申立人及び申立人代理人は、右免責申立期間を徒過してから本件申立に及んだ事情について縷々弁解するか、それは要するに本件破産及び免責手続への関与について申立人がいかに無責任かつ不誠実、軽率かつ怠慢、無反省かつ厚顔であったかを露呈するばかりであって、これにより、前記結論を補強こそすれ、同結論を変更する要はいささかも存しない。よって、本件申立を不適法と認め、主文のとおり決定する。
(裁判官 井上薫)